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幽霊歌〜ghost song〜

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私じゃない私の記憶が
心の更に奥底から
僅かに垣間見える瞬間がある。
それは日の出を迎える寸前の
世界で最も暗黒に染められた時刻。
チベットの僻地にある小さな小さな教会の地下に眠る
大きな大きな図書館の膨大な本棚の中でも
最も古い書物の匂いに似た風に包まれる瞬間。

アンダースタンド?

遥か上空に聳える城の中
赤いベッドで息絶えたお姫様。
そのお姫様こそ、私じゃない私だった。
不自由な自由を本当の自由だと自分に嘘を付き続けた人生。
それでも国は民の暴徒化によるクーデターで崩壊前夜。
最後に見た景色は嘲笑う赤い薔薇たちと黒い神たち。
見下しているようで、慈愛に満ちたような何とも不思議な笑い声。
現世に未練は無かったが、心残りは、この国の行く末だけ。

しかし、私に時間は残されていなかったみたいね。
大きな黒い鎌が私の首をご機嫌にサヨナラする。
全てを受け入れて悟った瞬間。
それまで感じていた重力から解放される。
そして今まで自分の身体だった物質から
脱皮するように生命の門を潜り抜ける。

その瞬間に本当の自分に出会った。
正確に言えば、今までの前世の記憶が全て呼び覚まされた。
そこには無数の白いミクロコスモスに覆われた宇宙の片隅。
そんな神の周波数に包まれた余剰次元の数々。
人間的に言えば「無数のダークマターに包まれた魂のルーツ
或いは「愛の故郷」とでも言うべき本来の居場所に帰還していた。

その際に再びあの嘲笑っていた黒い神たちと出会う。
そして一緒に現世を振り返る作業に入る。

一方で今まで私の一部だった物質的肉体はそのまま世界に居残り続ける。
しかし徐々にだが腐敗が進み、目には見えない粒子化を始める。
それを神曰く「人間的に言えば幽霊の正体なのさ」と教えてくれた。

幽霊?

そう。キミは幽霊を信じないタイプかい?
 それは残念無念の単細胞さんだね。
 そもそも冷静に考えれば分かるでしょ?
 この世界の大半は人間の目には見えないようになっている

でも目に見えないものは信用できないのが人の常。

まぁ、それも人生かな。
 それよりも耳を済ませてごらん。
 何か聴こえないかい?

黒い神たちの言われるがまま鼓膜に意識を集中させる。
すると、イルカの鳴き声に似た、甲高くも美しい金砂のような歌声が聴こえる。

これが君の幽霊歌

幽霊歌?

そう。キミの現世のカルマが最後に奏でる嘆きのミロス

そんな私の幽霊歌は
地球の絶望に似た、宇宙の歓喜に似た、
波打際で聞く誰かの鼓動に似た、
最大の安心感を与えるような幽霊歌だった。

本当はね、この幽霊歌はキミが物質世界に居る時に聴いて欲しかったんだ。
 寧ろ、今回のキミの目標は幽霊歌を現世の人々に届ける事だったんだよね

黒い神たちはわざとらしく、如何にも残念そうに首を左右に大きく振る。

それよりも、、、
死んで初めて、今のような状態になれるというのに、
生きている間に幽霊歌を聴く事なんて可能なのだろうか?

もちろん可能さ。君がアセンションをすれば、いつでもどこでも聴けるよ

アセンション?

「そうさ。人間的に言えばアセンション

アセンションとは?

そうだね。物質に囚われず、視界に惑わされる事なく
 第六感以上の感覚を研ぎ澄ませて
 宇宙の真実を掴み取れる状態の事を人間的に”アセンション”と呼称しているよ

そのアセンションする方法は?

それは個人個人で異なるから何とも言えないね。
 しかし、今回のキミの人生の目的は未達に終わった訳だ。
 そうなると、君は近いうちにもう一度、人生をやり直す事になる。
 しかし、これもまた良い機会さ。
 来世ではきっと君の生の幽霊歌が聴けるはずさ

本当に幽霊歌は聴けるのだろうか?

今回は時代が悪かったね。
 でも来世では君のやりたい事が容易に出来る。
 もちろん、それなりの努力は必要だろうけどね… いや

そう言って、黒い神たちは少し間を空ける。

「そうだね。アドバイスを与えよう。そうじゃないと公正じゃない。
よく聞いてね。
物質世界の本質は”振動”なんだよ。
そして宇宙の本質の大半は人間の目には映らないところで活動している。
宇宙はひねくれ者だからね。
あえて、大切なもの程、人間の目には見えないように設計しているのさ。
それにね。努力している時点で、その努力は無駄なのさ。
本当にやるべき事案ならば、努力なんて概念はすっかりと消え去り、
一切の感情を置き去りにして、全集中で没頭しているはずさ。
そうでなければ、本当のキミの肉体は保てないはずさ。
だから、来世では何も気にせず、キミの感じるままに行動すればいい。
それがどんな結果になろうとも、私たちはキミの存在そのものを全肯定するよ。
それでも不安な時は、この余剰次元に全て投げ出せばいい。

その時の嘘を その時の罪を   その時の哀れみを…
その時の罰を その時の孤独を  その時の屍を…
その時の風を その時の声を   その時の喜びを…
その時の色を その時の記憶を  その時の快楽を…

余剰次元は宇宙とキミの全てを受け入れる場所だからね」

そう言い残した黒い神たちが徐々に私から遠ざかる。
そして私の意識も徐々に遠ざかる。
視界が徐々にぼやけて、白く染まり始めた。

アンダースタンド?

そんな夢から目覚めた真夜中。
そこは狭い牢獄の中、白いベッドの上。
囚われて何日が経っただろうか。
それでも私は歌い続けるしかない。
それが現世に生まれてきた目的なのだから。
例え黒い神たちに嘲笑われたとしても
この誰かの幽霊歌を宇宙に届くまで、私は歌い続けよう………

 

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