「ハロー、ハロー、無能ガール」と私の頭上で黄色いカラスが嘲笑う。
産まれたてのヒヨコみたいな穢れのない綺麗な羽毛に包まれた憎たらしいカラス。
「今、何歳ですか? もういい加減に気付けよ、無能ガール」と眼光を鋭く光らせカラスが鳴く。
『違うわ。私には才能がある。
ただ、世間が私を見つけてくれないだけよ』
そんな言い訳が口元まで出掛かったところで必死に呑み込んだ。
どうせ、何を言ったところで、この世界は結果が全てだ。
ここで人生の全てを経験したふりをして敗者の弁を述べたところで誰も耳を傾けない。
振り返ってみれば、あっという間だった。
小学校を卒業した時も、中学校を卒業した時も
高校を卒業した時も、終わってみればあっという間だと感じた。
それだけ経験すれば理解すると思っていたのに、
恐らく、人生も終えて初めてあっという間だと感じるのだろう。
時間の残酷さに関して、私は何も学べないようだ。
もう既に分かっている。
もうとっくに諦めている。
はずなのに、まだ創造が止まらない。
私の中に居る自我が、私を置き去りにして、次の私へと概念を繋ごうと走り続ける。
「ちょっと待って」と呼び止めても、自我は振り向く事なく真理へと突き進む。
ソロソロと白く輝く剥き出しに晒された真理の道。
歩き続けていると両脇に今まで戦ってきた自分の景色が広がる。
湧き出る欲望は青いワニに喰われる。
争う渇望は赤いキリンにかじられる。
従う切望は黒いカバに潰された。。。
そんな心のサファリパークによそ見をしてしまう。
しかし、私の中の自我は全ての出来事に関心を示さず、足を緩めず歩みを進める。
戸惑う失望は陽気なマンボウと踊る。
躊躇う要望は根暗なネコに奪われる。
戦う本望は無関心なパンダの玩具になる。
抗う攻防は醜いニンゲンに添えられた。
熱くも冷たくも無いぬるま湯に浸かり続けているような不安。
脱出したいけど、目に見えない臆病という名の鎖に繋がれている日々。
しかし、自我は本能的に察しているのだ。
或いは、私が潜在的に思っている事を具現化したのだろうか。
この果てしなく延々と続く長い道の果てを眺めてみるが、行き着く先は全く見えない。
それどころか、先々の道はか細く千切れそうだったり、曲がりに曲がって遠回りだったり、
道のど真ん中で我が物顔で寝たふりをしているライオンが居たり、
その先を容易に進める事は愚か、進んでも報われる保証は何処にもない。
「それじゃあ、早く諦めろよ、無能ガール」と私の頭上で黄色いカラスが嘲笑う。
そんなカラスの視線の先には、私の自我が遥か先で私が来るのを待っていた。
「この剥き出しインセキュリティは新たな革命の前触れだろ?」と黄色いカラスが鋭いクチバシで確信を突く。
私の自我は、まだ私を諦めていないようだ。
そう察した瞬間に辺り一面が何かに解き放たれたように発光すると、
瞬きをした次の景色は全てを覆い尽くす宇宙へと変貌していた。
その時に香る宇宙の匂いは太陽に似て、温かくも厳しい匂いだった。
とても懐かしくも新しい匂いに、私は生きていると同時に生かされているのだと実感した。
悩むよりも先に足が勝手に動いていた。
軽やかな足取りで走っていた。
何故だか涙が流れていた。
日曜日の朝の優しい陽ざしがカーテンの隙間から私の頬を愛撫していた。
夢から覚めると頭は久々に晴れ渡っていた。
昨夜の夢はさながら、崩壊前夜のワンダーランドと言ったところか。
この気持ちを忘れないように詩として残しておこう。
いつか、この夢が笑い話に出来るくらいの素晴らしい未来に繋げる為の詩にしよう。
タイトルは『剥き出しインセキュリティ、或いは、崩壊前夜のワンダーランド』
(MEIKO)剥き出しインセキュリティ、或いは、崩壊前夜のワンダーランド(オリジナル楽曲) – YouTube
このショートストーリーは0-9楽曲「剝き出しインセキュリティ、或いは、崩壊前夜のワンダーランド』の歌詞を基に書いた物語です。
寝ている時に見る夢と目が覚めても見ている夢が同じな人って、それだけで人生を謳歌していると思います。逆に人間が夢を見る理由は、そこにあるのではないかと考えてます。
叶えたい夢と叶えないといけない使命が重なった時に、生まれてきた理由に出会う。そんな人生の真理が少しでも伝わってくれたら嬉しいです!
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