2007年に公開した0-9楽曲『忘却心中』の歌詞の基となったショートストーリーです。
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高校の卒業式を控えた3日前にタカシの死を担任から知らされた。
高校2年のときだった。古文の授業を受けていた時に、
私の2つ後ろの席に座っていたタカシが何の前触れもなく倒れた。
全身を激しく痙攣させ、口からは白い泡を吐いていた。
その日以来、タカシが学校に来ることはなかった。
今思えば、それが私が最後に見たタカシの姿だった。
24歳を迎えたとき、私は恋人を亡くした。交通事故だった。
周囲にも私達の交際は知られていたし、結婚という具体的な将来像まで考え始めていた。
葬式に参列した友人達は皆、涙を流しながら私の恋人の死を悔やんでくれた。
もちろん、私も恋人の死は悔しく悲しかった。しかし不思議と涙は流れなかった。
火葬され、変わり果てた恋人の姿を見たとき、不意にタカシの事を思い出した。
私とタカシは特に仲の良かった関係とは言えず、朝と夕方に挨拶を交わす程度の間柄だった。
正直、タカシの死を聞いても悲しくは思ったが、心のどこかで他人事のように思っていた。
恋人の遺骨と同じようにタカシも火葬され骨だけになったのだろう。
しかし私はそんな具体的なタカシの死など、今まで一度も考えた事がなかった。
葬儀が終わると友人達は私に同情の言葉や励ましの言葉を掛けてくれた。
そのときになって、私は涙が溢れてきた。
恋人の死以上に、タカシの死に対してあまりにも薄情だった自分に対して悔しさが込み上げてきたのだ。
こんな私が恋人の死に対して悲しんで良いのだろうか?
こんな私が今更タカシの死に対してもっと具体的に悲しんでも良いのだろうか?
葬式に参列した友人達もきっと何日後かには、何事も無かったかのように笑ってくだらない話で盛り上がるだろう。
きっと私も何年後かには恋人の匂いを忘れ、声を忘れ、笑顔を忘れてしまうかもしれない。
それは何も悪いことではない。何の罪にもならない。何の罰も与えられない。
だから余計に悔しいのだろう。未だに涙が止まらない。
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