彼女の顔を見るたびに、僕はまだ稚拙だったあの頃を思い出す。
彼女の声を聞くたびに、僕はまだ不安だったあの頃を思い出す。
彼女の曲を聴くたびに、僕はまた涙で溺れそうになってしまう。
彼女の髪を嗅ぐたびに、僕はまた追いかけてしまいそうなる。
そんな不甲斐ない僕に、彼女はきっと優しく叱ってくれる。
だから、僕はいつも彼女に甘え、夢のなかで愛し続ける。
どうして、こんな人生になってしまったのだろうか。
あれから時間は、僕を二一歳にしてしまった。永遠に一八歳のままの彼女と年の差が離れ出す寂しさにも慣れつつある。
時間が経つに連れてできないことが少しずつできはじめ、世間の本質も徐々に見えてきた。それでも不確定な未来はいまだに変わらず、今も必死にもがいて光を探し求めている日々だ。
誰もが通る、残酷で無慈悲な青春ってヤツとの戦いは、どうやら死ぬまで終わらないらしい。
でも、それでいい。
戦い続ける限り、僕は彼女を近くで感じることができる。
僕が生きている意味、それは彼女と再会するその時まで、たくさんの思い出話しを作ることだ。
⇔
「それでお前はもう戻らないのか?」と並行世界の自分が問いかける。
僕は深呼吸をして、もう一度だけ目を閉じる。そして改めて第三の目で並行世界を全て見渡す。すると、残酷なまでに言い訳の出来ない真実に辿り着く。それは僕が過ごした世界での僕は佐々木の存在に囚われていた。それは何も悪くないのだが、当然ながら、無数に存在する並行世界の中の僕は佐々木以外の女性と結ばれた世界線も無数に存在する。中には、生涯独身を貫いた世界も存在した。
そんな全ての並行世界を眺めていると徐々に虚しくなってきた。
そして初歩的で根本的な疑問が浮かび上がる。
――何故、人生は存在するのだろうか?
そんな疑問が思い浮かんだ瞬間に「もう気付いているんだろ?」と全てを見透かすようにスターオメガになった自分が囁く。
スターオメガが言う通り、この肉体から解放されて魂のような存在になった今ならば完全に理解できる。
この魂の存在になると、空腹が訪れなければ、睡魔も襲ってこない。病気にもならなければ、痛みも感じない。それは死という概念が存在しないからだ。即ち、時間という概念から解放され、生きている間に感じていた不安要素が全て取り除かれる。そしてその先で立ちはだかる敵が“永遠”だ――
宇宙の彼方を眺めていると旅立つ途中の魂たちが群れを成して天の川を流れていた。その中に群れから逸れた黒い羊が怯えるように震えていた。僕はそっと手を伸ばして黒い羊の背中を優しく撫で続ける。すると、次第に震えを止めた黒い羊はその場で穏やかに眠りに落ちた――
永遠… 生前では憧れさえ抱いた存在だが、実際に手にした永遠という存在は残酷なまでに虚空そのものだ。次第に自分の存在意義が薄れて最終的には自我が完全に消滅してしまう。そんな感情が死に逝く途中で走馬灯のように過るのが、生前に芽生えた無数の感情たちだ。その中には卑劣で残酷な行為も存在する。しかし、そんな負の感情でさえも恋しく感じてしまうから質が悪い。そして最終的に皆が同じような欲望に駆られる。
“感情が欲しい”
生きている間は怖かったはずの大病や戦争や飢餓さえも、極上の感情と認識してしまう。そしてそんな好物のような感情をどうしても欲しがってしまう。魂になっても“ないものねだり”は無くならないらしい。
しかし真実を知った状態、所謂“悟りの境地”で転生しても何の意味も無い。記憶を全て消去した上で転生しなければ、純粋で極上な感情は手に入らない。
「粉宇宙を吸えばいい。あれは一時的だが、生きている間の感情を呼び覚ます作用が働く」とスターオメガが不敵な笑みで誘惑するが僕は首を横に振る。
そんなまやかしの感情など一時的な慰めにしかならない。寧ろ、粉宇宙の後遺症で更に苦しむ事になるだろう。
だから、健全で賢い魂たちは全てを投げ売ってでも、純粋な転生を望むのだろう。
「完全に悟ったな。それでこれからどうする?」
まずは約束の地へ向かい、マギーQに挨拶してくるよ。
「そうだな。スターオメガになったのなら、挨拶しておいた方がいいだろう」
いや、その前に許せない存在を消しておかないといけないか。
「許せない存在? 誰のことだ?」
東京ダビンチだ。アイツはダメだ。いたずらに“目覚めていない者”に関わり過ぎている。それに…
「それに?」
根本的に東京ダビンチは噓つきだ。
――終わり

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