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ダダタイダダダ その1

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0-9ショートストーリー

この世界は創造破壊の繰り返しだ。
 そして芸術とは国権と民権、或いは権力と自由との闘いなのだ
そう言い残して、とある芸術家は全身にガソリンを被って焼身自殺を図った。

それまでの芸術とは、権力者の依頼によって報酬を得られるのが一般的だった。
だから、芸術家たちはお金を稼ぐために権力者が満足する作品だけを残してきた。
それ以外の作品は全て趣味の領域だ。

飼い犬のように尻尾を振るな!
 自分が生まれた意味を探せ!
当時の芸術家の内心に、いつも響いていた神からの叫び。
その願いが叶うには、まだ時代が早過ぎたようだ…

1918年
11月14日(木)
午前6時13分。
チューリッヒ。
第一次世界大戦におけるドイツと連合国の休戦協定が結ばれて間の無く。。。

破壊と否定の大仕事と題して、既存の常識を疑う人物が現れた。
後に彼らの事を総称してダダイストと呼ばれるようになる。
ダダイストはマンネリ化した常識を無条件に嫌っていた。
進化が見られない現状から足掻く行為と捉えれば、ある意味では生物として正常な活動なのかもしれない。
しかし、人間とは失って初めて大切な物に気付く哀れな生物だから。。。

クリスは日曜日の早朝にいつもの喫茶店でダンテと待ち合わせしていた。
それは近くの公民館で開催されるダダの集会に参加する為だった。
店内は珈琲の芳醇な香りとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲に包まれていた。
まだ早い時間帯で曲も疎らで穏やかな静寂にクリスは起きたばかりだというのに、再び眠気に襲われる。
壁にはダビンチが描いたモナ・リザの複写画が掛けられていた。
本物の作品を前にするとダダという活動が馬鹿らしくなってくる。
そう、周囲のダダイストもとっくに気付いているはずなんだ。
クリスは今日の集会でダダイストを止めると内心で決めていた。
あわよくば、ダンテも自分と同じ思いならばいいのだが。
クリスはテーブルに置かれている珈琲を一口含む。
カウンターの奥でマスターが朝食を拵えている。
この空間も捉え方によってはアートなのだろう。
今はありきたりな、何処にでもある喫茶店でも
何百年後には、この周囲にある家具や装飾や食器も、全て骨董品と化すだろう。
時代が過ぎて価値を増す物がそこら中に溢れているというのに
今ある価値観だけで芸術を語るのは、あまりにも稚拙な行為だ。
そう悟ったクリスは15分後に来たダンテと共に公民館に向かう。
しかし、その集会がクリスにとって人生最後の場所となった。

集会には様々な思想も持ったダダイストが集まる。
同じダダイストなのに、議論はいつも平行線だ。

我々が本物のダダだ
私たちが元祖のダダよ
アイツは低俗なダダだ
ダダすら、もう古い思想なのかもしれない

そもそも芸術に精通しない一般人でさえ、自らがダダと名乗れば
その瞬間に立派なダダになれる。
日頃のストレスをダダを利用して晴らしている者も少なくなってきている。
もう潮時なのかもしれない。
少なからずクリスと同じように諦めている者も居た。

「それではダダ対ダダの始まりですね」

会合を隅で立ち聞きしていた男が不敵な笑みを浮かべると、
懐に隠し持っていた拳銃をクリスに向けて発砲する。
クリスが最後に見た光景は、ダンテがその男の横で不敵な笑みを浮かべる瞬間だった。
それを合図に乱闘が勃発すると、公民館は修羅場と化し
警察が来るまでの間に死者3人・重軽傷12人を出す事件にまで発展した。

もはや、そこに芸術を論争する道徳など留めていなかった。
しかし、ダダムーブメントはしばらく続いた。
ダダの活躍はドイツからフランスに移り、一定の知名度を得た。
しかし、その先に更なる崇高な望みなどあるはずもなく、徐々に終息を始める。

本質を見失うと熱狂はただの純粋な狂気に過ぎない。
その狂気の中に夢も理想も存在できない。
それは何も芸術の話だけではないはずだ。

この世界に生きている限り、何かしらの依存、或いは誰かの影響を受けている。
だとすると、僕らも何かしらのダダイストと化していると言えないだろうか?

結論、僅か8年ほどでダダは終息した。

しかし、その後に世界は全ての価値観を破壊する二度目の世界大戦へと突入する。
その長く大規模な戦争は人類に価値観の破壊と新たな創造を与える。。。

その2に続く。

(MEIKO) ダダタイダダダ (オリジナル楽曲) – YouTube


 

今回は0-9のオリジナル楽曲『ダダタイダダダ』の世界観をショートストーリーにしてみました。

ただ、いつもよりも文章が長くなりそうなので、分割してみました(※現時点で完成してません)

とりあえず、今回は「その1」として書きましたが、「その2」「その3」まで続く予定です。

この中の大半は歴史になぞりつつも、フィクションが織り交ぜて書いた物なので、話半分に読んで頂ければ幸いです!

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